タイトル一覧
墓を参る老人
ギュゥギュゥと雪を踏む音。
歳をとった男が広い雪の積もった墓地を歩いている。
手には紙袋を持っていて紙袋の頭からパイナップルの硬い葉が出ている。
t2
男は歩みを進め目的の墓にたどり着く。
暮石の中心には『forbidden』と小さく静かに刻まれている。
墓には干からびたパイナップルがいくつか供え置かれている。
ayoan
男はしばらく『forbidden』の文字を見つめている。
紙袋からパイナップルを取り出して干からびたパイナップルの隣に雪に刺す様におく。
男はパイナップルたちを眺めて口角を上げてニヤリと笑う。
t2
刻まれていた『forbidden』が『forgiven』に変わる。
男は一番干からびて萎んだパイナップルを着ているジャケットの懐にしまい、その場を立ち去った。
ayoan
墓の入り口で若い女が立っている。
男がやって来て立ち止まって女を見下ろす。女はずっと墓の方を見ている。
男は懐から萎びたパイナップルを取り出すと女に差し出す。
女は両手で萎びたパイナップルをすくう様に手に取ると無表情のまま涙を流す。
男は深いシワをさらに歪ませながら「クックック」と笑いをこぼした。
t2
笑った男をみて、涙を流していた女の顔は笑わないでよというような照れた表情になっていき、最後には男と一緒に微笑んだ。
男は「さあ、行こう」と言って脇から女の身体を抱き寄せた。
ふたりはその場をあとにした。
ayoan
二人が去った後の地面の雪には小さな靴が歩いた跡だけが残っていた。
t2
二人が去ったあとの墓地は電灯が消えて真っ暗になった。
ayoan
暗闇の中をトロッコがガタガタと大きな音をさせて走ってくる。
ギギギーと不器用に止まったトロッコに詰め込まれた様に乗っていた炭坑夫たちが降りてくる。
スス汚れた作業着とライトのついたヘルメット。狭いトンネルを黙々と歩いて行く坑夫たち。
ayoan
炭坑夫たちはみんなお揃いのジャケットを着て賑やかにおしゃべりをしながら手持ちのスコップで先を掘り進む。
お揃いのジャケットの胸元にはパイナップルのロゴマークのワッペンが、スス汚れたジャケットの中キラリと輝いている。
ayoan
お喋り野郎「おい?知ってるかぁ?」
お喋り野郎のヒゲの長い男が今日もまた話しかけてくる。
どういうわけか気に入られたらしい。
いつも咳混じりのダミ声で永遠と喋っている。
酒の話、女の話、ボスの話、咳の話、スコップの話、仲間の話、トロッコの席の話、、、、
作業の邪魔にはならないが出来れば黙ってて欲しい。が今日の話は少し興味を持った。
ayoan