タイトル一覧
女と鏡
女が鏡をみている
ayoan
鏡の中の自分が話しかけてくる。
「おはよう。今日は何をするの?」
仕事を辞めてから2週間が経っている。
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女は鏡を裏返した。
今日すべきことはやり遂げた気がした。
ayoan
部屋を見渡す女。
この2週間で徹底的に掃除をした甲斐があって無駄なもの一つホコリ一つ無くなった。
「今日は何をするの?」
何もしたくなくなって始めたこの生活なのだが毎日忙しい。
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洗面台の鏡に映る自分に向かって、女は話しかける。
「今日何してたの?」
ayoan
鏡の中の自分はその問いに不快な顔をした。
仕事もやめた、何もうまない人間関係も切った。
のに、何も抜け出せていない。
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「明日はどうする?」
鏡の自分に聞いた。
「今日は寝るわ。また明日。」
鏡の自分は不愉快そうにそう答えた。
「…うん、おやすみ。」
「おやすみ。」
ayoan
朝。
鏡を覗くとすぐに写った自分が話しかけてくる。
「おはよう。」
自分に少し微笑みかけてから化粧をし始める女。
ゆっくりと念入りに。
「今日は何をするの?」
女はしっかりと目を合わせて
「特になにもしないよ。」と教えてあげる。
「可愛いね。」と鏡の中の女が嬉しそうに褒めてくれる。
素直に嬉しいと思って笑顔になる女。
ayoan
女はヤカンに水を入れ、コンロに火をつける。
そしてしばらく放置してしまっていた観葉植物の鉢いっぱいに水をやった。
ヤカンがヒューヒュー音を出しはじめた。
沸いたお湯で女は丁寧に紅茶を作った。
ティースプーンに写る自分の表情は、幸せそうだ。
ayoan
紅茶のカップを持ってベランダに出る女。
マンションの四階から見る風景は引っ越してきた時からは変わっていたけれどどこが変わっているか細かくはわからなかった。
まだ少し冷たい空気が紅茶をより熱くさせて女の力の抜けた身体にしみていく。
ayoan