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カズユキ
少年は国語の授業の最中、ハサミで教科書を切り刻んでいる。
ayoan
最初は特には意味も目的もなく切り始めた。
けれど今までハサミを使って紙を切ったどんな時よりも楽しく感じた。
ただ紙を切る行為。
そして細かくなった紙切れ達が増えていくのが何時の間にか目的になっていた。
教科書をハサミで切るという行為が'良い'事ではないというのはわかっている。
けれどもそういうことがどうでもよくなった。
ayoan
となりの席の女の子「センセー、カズユキ君がまた教科書切ってまーす」
先生「あらーカズユキ君」
カズユキはみんなから注目されキョトンとする。
ayoan
となりの席の女の子
「何か言いなさいよ!いま授業中だよ」
紙を切る音で授業に集中出来ない隣の女の子はカズユキを見ながら腹を立てている。
するとカズユキは口を開いた。
カズユキ
「先生、ごめんなさい。ユミ、そんなに怒らないでよ。でもごめんね。」
楽しく切っていたはずの教科書だったが、しかし、キョトンとした表情は変わらず涙目になったカズユキは呆然としてる。隣の女の子は、幼馴染のユミである。ユミは、カズユキを責めたいがこの日ばかりはカズユキの異変を察していた。
cory
皆んなに注目されて嬉しくなってニッコリと笑うカズユキ。
その純粋な笑顔を見て微笑む先生。
優しい笑顔を向けられて哀しくなってワンワン泣くカズユキ。
ayoan
滴る涙で濡れる教科書。
カズユキは袖で涙を拭いながらゆっくりと立ち上がり、教室のベランダへ出た。
先生と生徒たちはカズユキの様子をただ見守るしかなかった。
ayoan
運動場でリレーの練習をしている生徒たちがカズユキに気がついて「カズユキだーっ」と注目する。
2階のベランダから見る階下のみんなが自分を見ていることでカズユキはヒーローになった。
そのまま手すりを登りジャンプする。
教室と運動場が凍りつく。
ayoan
ベランダから飛び降りたカズユキは幸い葉の生い茂った植木の上に落ちて怪我はなかったが、気を失った。
気がつくとカズユキは保健室のベッドで横になっていた。
仕切りのカーテンに映る外の木のシルエットをみながらカズユキは思った。
{ぼくはヒーローになる}
ayoan
その事件から数週間、新しい担任の先生にも出られなくなったベランダの事にも慣れたが、
カズユキの様子の変化には皆心配と警戒を感じていた。
馬鹿な事を一切しなくなった。
みんな今までカズユキの馬鹿げた行動にどこか期待していたのだがその楽しみがなくなった。
皆はどこか悪い所を打ったのか、よほど怖かったのかなどと思っていた。
そんな周りをよそにカズユキは何回も何回も飛んだ時のことを思い出していた。
ayoan