タイトル一覧
草原
なだらかに波うつ草原。
ayoan
部屋。
寝ている男。
テレビには草原の映像。
t2
映像の中の世界は草原一色にみえる。
どこまでも遠くに続いているよう。
ayoan
部屋で寝ている男は草原の映像を見ている。
風になびいている草を撫でるように触る男の手。
t2
男は草の上にうつ伏せで手足を広げて横たわっている。
その草を撫でる手は大地を愛でるかのよう。
赤子を抱くように、子猫を抱くように。
ayoan
男は両肘をついて目の前にある草を手に取り凝視する。
シンプルで緻密な草の構造。
生きていて育っているんだと実感できる草の外見。
ayoan
草をもぎ取り、仰向けに向き直って宙に放る。
草はパラパラと顔に落ちてくる。
男は顔を振って草を振り落とし、空を見つめる。
空は雲ひとつなく、空一面は限りなく白に近く青がかっている。
ayoan
青白い壁の前を歩いている男。
沢山の人が歩いている。
いくつもの笑っている顔や真剣な顔とすれ違う。
ayoan
草原に吹く風は静かで、ときおりどこからかいい匂いを運んでくる。
その匂いはときに凄まじく、強烈に鼻につくほどに、今男が居る場所へと吹き着く。
ayoan
コンクリートのビルとアスファルトで覆われ無数の色で装飾された街。
整列した混沌に従って道を歩く人々。
草の匂いが混じった風がその男だけを立ち止まらせた。
t2
激しく吹いた風は止み、風に揺られていた草はじっとしている。
男は立ち上がり、360°草原を見渡す。
しばらく茫然とし、歩き始める。
ayoan
一瞬だけ感じた草の香りは男の臭覚を敏感にした。
車の排気ガスや飲食店、すれ違う人の香水ゴミ箱タバコ。
いろんな匂いの混じった生ぬるい空気の中で男は草の匂いを探して歩き始めた。
ayoan
あの風が運んできた匂いは何だったのだろうと、考えながら男は草原を歩いている。
ふと、今まで感じたことのなかった草の匂いをあらためて知る思いがした。
男は少し息を吐き、空を見上げ、深呼吸をしながら目をつぶった。
ayoan
男はベンチに座っている。
子供達の無邪気な騒ぎ声が聞こえる。
草の匂いと緩やかな風が男の気持ちを少し落ち着かせた。
目を開けると芝生の上で数人の子供達が裸足で芝生の上を走り回りながら笑あっている。
何がどう楽しいのかはわからないけれどその情景を見ていた男もつい笑っていた。
広い芝生の広場とそれを囲むように在る木々。
その木の塊の上に遠く見える都会のビル。
落ち着く気持ちと同じように湧いてくる沈む感覚がこういうことではないと男に告げている。
子供達の笑い声を残してベンチを立ち歩いて行く男。
ayoan
男は靴と靴下を脱ぎ捨てると、波打つ地平線に向かって歩みだす。
丈夫な濃い草地を踏みしめる足裏の細胞は呼吸をしているように感じる。
一歩進む毎に草先が足裏を刺してくすぐったい触感を得た。
歩くにつれ、そのくすぐったさがクセになった男は嬉しそうに走り出した。
ayoan
そう、この物語は、
長野県松本市にある武家村塾
の創始者、草原家を描いたものである。
"なだらかな波をうつ"
と聞いて、想像できるだろう。
なだらかなバーコードである。
何を隠そう、
草原さんは、あの
"バーコードハゲ"という言語を作り出した、
造語界のプリンスである。
cory
文章の下書きや原案の事を'草案'と言うのも草原さんの草からきている事はあまり知られていない。
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草原の中に立っている少女。
髪は綺麗なブロンドで目もまた透き通るようなエメラルドグリーン。
手には古びた一冊の本を持っている。
and
「起きて」
少女は静かに言った。
ayoan
男はハッとして目を覚まし上半身をグッと起こす。
耳元に残る少女の声と息使いに困惑しながら周りを確かめるが部屋には誰も居ない。
テレビには草原の映像が映し出されている。
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少女は手に持った本をゆっくりと開いてブツブツと読み始める。
風がグゥーとうなり、雲が切れて月明かりが少女の髪を輝かす。
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草が発色しはじめ、あたり一面が黄緑の蛍光色に覆われた。
ayoan
テレビから放たれる強い光が、男が寝ている部屋を照らす。
ayoan
男はまぶしさに目を覚ます。
ayoan
草原に広がっていた光は収縮しながら少女を丸く囲うように円に留まり、凝縮された光は少女の姿を塗りつぶすほどに白く輝いた。
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正に草原が似合う彼女である。
背景に劣ることないキャスティングには脱帽するしかない。
それほどにこちらが目を奪われ、今にも映像の中に吸い込まれそうな感じさえある。
そんな美しい彼女を見た男は彼女を疑うことすらないだろう。
映像を眺めていると彼女がこちらに歩き始めた。
最初の一歩を踏み出したその瞬間、足元が鮮明に見えた。
カチカチカチカチ、なんと彼女の足元はスパイクだったのである。
cory