タイトル一覧
街頭の男
早朝の街。
暗くも明るくもない無機質な空の色。
薄青い空の光で影も少し青みがかっている。
店が連なる通り。
まだシャターの開かない店前に、シャッターに寄りかかって座りながら缶コーヒーをすすっている一人の男。
ayoan
店の脇にあるゴミ袋の所に一匹のカラスが飛んできてゴミ袋を2、3回突く。
男はカラスってデカイなと思いカラスを眺めながら缶コーヒーを飲み干して
空き缶をカラスがついばんでいるゴミ袋に向かって投げる。
缶が転がる音が響く。
カラスは動じずに男の方を見てカァーーと叫んでから飛んで行った。
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男は「よし行くかあ」とゆっくりと立ち上がり尻をパンパンと叩く。
街はカラスに啄ばみられたゴミ袋から散ったゴミで汚れている。
腐敗臭の漂う街頭を男は歩きだす。
ayoan
少し大きな通りに出るといつも通り強烈な腐臭が男を襲う。
道にはいくつもの屍が転がっている。一部白骨化した物、死んだ時の苦しみがまだ分かる表情をした物、子供、犬、、、、。
死者達の道を口笛を吹きながら歩く男。
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この街は『死街』と呼ばれている。
ayoan
環街(死街は都市の中央部にある)の皆は死街の話も避けようとするし誰も行こうとはしない。
以前は自分もそうだったがいつ頃からか時間があるとこの街にきている。
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ここにくると、あらゆる『死』を実体験している気がしていた。
男は死ぬことに興味があった。
何度でも死んでみたい好奇心があった。
ayoan
男はふと違和感を感じて立ち止まった。
そして一体の死体から目が話せなくなった。
その死体は若い女で壁に背中をつけて座っている。
青白く血は通っていないけれどとても穏やかでいまにも目を開けそうな表情をしている。
男は女の死体に近づいて行く。
全然知らない女だと男はわかっているがまるで家族か恋人の様にその死体を見てしまう。
死街の遺体からの窃盗は死罪。
わかっているが体が動く。
女の上着を調べ始める男。
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女が身につけている上着が女の体型にはサイズが大きい気がした。
胸ポケットにパスケースが入っていた。
ケースの中を見てみると、顔写真のついた身分証が何枚も入っていた。
ayoan
古いものや異国のもの顔写真が載っているもの。
いろんな身分証を男は慎重に見てから女の顔を観察して見た。
女の首元にあった赤黒い痣が男の遠い記憶に引っかかった。
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両親の深刻な顔、隔離された祖父母の肌に浮かぶ無数の赤黒い痣、防護スーツを着た医師達。
幼い頃の断片的な記憶に男はぞっとして女の前から2、3歩退いた。
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女が身につけている上着が女の体型にはサイズが大きい気がした。
胸ポケットに手紙封筒をみつけた。
男は一度周りをみて人目がないかを確認し、その封筒を自分の胸ポケットへしまった。
ayoan
男は立ち上がって女の顔を見つめる。
男の額にはじっとりと汗が浮かんでいる。
瞬間目をつむっている女と目があった気がする男。
その強く美しい瞳に見つめられた男は恐ろしくなってその場を立ち去った。
ayoan
男は緊張した振る舞いを隠せず、死街と外の境界あたりまで足を進めた。
ayoan
ゲートの方を見てギョッとする男。
警備官が二人立っている。
いつもなら問題ない。今は封筒を持っている。
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男はよく死街には来ており、いま立っている警備官たちとは面識があってそれなりに信用されていた。
警備官といえども老若男女それぞれで特別厳格な警備をしているわけでもなく、門番程度の人たちである。
しかしモラルには厳しく人並みに窃盗を許す人たちではない。
死街では死にゆく人への尊厳があり神聖なものとして扱われている。
死に行くことへの自由が認められている。
男は入り口から逸れた脇道へ逃げる様に入って行く。
ayoan
この封筒をどうする?
事は重大だ。
男は考えを巡らせる。
捨ててはダメだ。
捨てた事実が自分の中に残る、それがまずい。
戻そう、戻せば盗んだという事が自分の中から消える。
とりあえずそれで切り抜けれる。
男は深呼吸をして監視員の視界に入らない道を選んで戻って行く。
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女がいた元の場所へ戻ると、女はそこにはもういなかった。
ayoan
同じ死体に二度会えない。
そんな話を前に聞いた気がする。
死街の都市伝説的な話にその時は特に何も思わなかった。
もう一度周りを見渡す。確かに、多分ここだった。
周りの遺体も見覚えは特にないというよりあの時は注目して居なかった。
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手紙の戻し場所が無くなってしまった。
困ったが、門から離れて気持ちは落ち着いていた。
男はさっきまで女がいたであろう場所に腰を下ろした。
ポケットに隠していた手紙封筒を手に取りしばらく考える様に眺め回してから、男は封を開けた。
ayoan
封筒の中にはクリーム色の数枚の紙が三つ折りになって入っていた。
ゆっくりと折り目を広げられた紙を見て男はドキリとする。
紙には探していた女のデッサン画が描かれていた。
その目は先ほど視線を交わした気がした目そのものだった。
ayoan
2枚目3枚目とめくると微笑んでいるものや半裸姿で寝ているものとどれも女のデッサン画だった。
最後の一枚は女が壁に背中をつけて座っている画で、男にはすぐにわかった。
最後の画は女の死体を描いたものだ。
ayoan
「お、おい、助けてくれ。
おい、そこのお前、、、」
泥沼に足を取られ今にも死にそうな声で助けを求める老婆。
cory
幻想だ、違いない。
助けてやるものか。
ayoan