タイトル一覧
Piece
明るいオレンジの膜の中 光が透けて浮遊している。
細長い細胞の連なりが触れようとすると逃げてしまうアメンボのように無駄のない動きで浮いている。
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少年が目を開ける。
両方の手を軽く握ってのばした足のももの上に置いた状態で座っている。
古く、汚れで浸食された無地のパズルが少年の座っている所を半円に囲うように敷かれている。
少年が自分の体の機能を確かめるようにゆっくりと起き上がる。辺りは目を覆いたくなるような広大な空間を持つ平の大地が広がっている。
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少年はゆっくりと立ち上がる。パラパラっとパズルの"台座"が崩れ落ちる。
視界の果てまで広がる大地を無心で見つめている少年。
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立っている少年の背中を風が大きくゆっくりと押す。一つのパズルのピースが風に乗って少年の足元を通り過ぎて地面に転がり倒れて止まる。
少年の立っている周りの地面に古いパズルのピースが点々と落ちている。少年は視線を下にやりその落ちているピースを見る。自分の足元にパズルが敷かれている事に気づく。
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振り向いて自分が座っていた所がパズルに囲まれて”台座”の様になっている。膝をついて自分の背がもたれていた部分の汚れたパズルを手で擦ってみるとその部分だけ新品のように真っ白に光を取り戻す。少年は嬉しくなってパズルをきれいにしようと手で擦っていると擦った力でパズルに穴があいてしまう。少年「あっ、、、、」穴を見つめる少年。
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立ち上がって”台座”を見る少年。パズルの台座は岩を覆うようになっていて岩の全面(少年が座っていた方)は覆われているが後面は下の方が少し残っているだけでほとんど岩がむき出しになっている。パズルの端のピースが風に吹かれて落ちる。”台座”を見つめる少年。
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ゆっくりと顔を上げて改めてあたりを見渡す少年。
一面の赤茶色の大地の奥に白い山の影が点々と見えてくる。広大な大地を感じて少年の息遣いが少し荒くなる。
遠くに薄く見える山々の影。少年は一番大きな影を見定める。
見つけた山の影の方向へ歩き出す少年。赤茶色の大地は堅く頼もしく少年の足をささえている。
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一歩一歩足を動かすごとにこの広大な大地を自分が動かしているという想像と同時に自分がまさに歩いている感覚を楽しむ少年。
それによってどこまでも行けるという可能性を確信しながら歩いて行く。
振り返る事立ち止まる事その概念を感じさせないただ歩くという行為。
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目指している山の形は少しも変わらない。
歩いていく少年。
視線はずっと山の影。
時間の感覚、距離の感覚はわからないに等しい、それでも少年は少年の中で大きな時空の中を歩いてきた様に感じ始めている。
それでも何も変わろうとしない赤茶の大地と白い山の影。
ついさっき(といってもどのくらい前なのかはわからない)までの自分の可能性と見えているはずの物やそれをとらえている自分の目までも疑いたくなるほどの現実感。
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それでも歩く事を止めない少年。
今少年に出来る事はそれだけで歩くのを止める事に何の意味も持たない事を少年は無意識下でわかっているのだ。
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少年が歩いていると遠くの地面に何かが見えてきた。
一面の赤茶色の大地に黄色シミのようなところが薄く見える。
少年の歩くスピードは変わらないが、大きく遠い目標の前に小さくすぐ手に届く目標が現れた事で自分の中の不安が打ち消されたようにしっかりと歩いていく。
だんだんと黄色いシミが大きくなってくる。黄色いシミを見ながら歩いていく少年。シミの輪郭がはっきりしてく
る。
少年「(砂だ。)」
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黄色い細かな粒子の砂が小さな一角に散らばっている。
ほとんどが風で流された様になっているが小さな山になっている所もある。
少年は砂の一角まで来て立ち止まる。弱い風が吹いて砂の山を少しずつ削っていく。
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少年はしゃがんで砂を指で触ってみる。少年の表情が少し緩む。
さらさらと滑らかな砂。両手ですくってみる。指が砂の中に入ったときの何ともいえない安心感。
熱だけではない温もりと一定の形として保たれない砂の集合体に入っていく感覚、しっかりとした重量感。
指の隙間から透き通る様にこぼれ落ちて風に奪われていく。
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少年はとても優しい顔になって手の中の砂を見つめている。
砂をすくってこぼれ落ちる。その心地よい動作を楽しんでいる少年。両手の器の中の砂がなくなってはすくう。それを繰り返す。
手の中の砂が半分ぐらいになったとき砂の中から白い欠片が表れてきた。少年は手に力を入れて指のすき間を閉じる。砂がこぼれなくなる。
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手の中の砂をゆっくり揺らすと白い欠片が浮き出てきた。
真っ白いパズルの一つのピース。
少年はハッとして手のひらの中の砂の上のピースを見る。
砂の中から出てきた驚きと何か宝物を見つけたような喜びで嬉しそうな少年。
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このピースは今自分が発見した。
この広大な大地の中の小さな砂の集まりの中にあった一つのピース。
自分がここで見つけなかったら永遠に砂の中にあったのかもしれないと思うと少年はドキドキしてすぐにこのピースが気に入った。
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ピースを落とさない様に砂をゆっくり手の器からこぼしてピースをつまんでまじまじと見つめる。
ピースの表面を親指でさする。スベスベしている。
そのまま立ち上がって少し迷うがニッコリ笑ってそのピースをズボンのポケットに入れる少年。
ポケットをそっとおさえて砂を見下ろす少年。
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砂の山は少年が来たときよりだいぶ平たくなっている。
風が砂をちらかす。砂を見つめる少年。
視線を上げて遥か遠い山の影を確認する。
歩き出す少年。
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いきなり目の前が暗くなる。
と同時に悪臭が漂う。
そう感じたのも束の間
溺れている自分を発見する。
cory